大学生の時の話。
サークルの部室にどっかのCD屋のニューリリース情報誌が転がっていた。
そこに、このCDの宣伝というか批評が書いてあった。
詳しくは忘れたが、「退屈な音楽だ」みたいな内容だった。
数日後、渋谷の塔レコード(*注1)に寄った。
特に探している物があるわけじゃなかったが、
ブラブラ見て回っていて、ふと『People』を見つけた。
散々な批評を受けていたが、彼はクリスチャン世界では有名な歌手だった(*注2)ので、
まあ聴いてみよっかな、とレジに持っていったのだった。
すごい音楽だった。
派手な音は一つもない。
余計な音も一つもない。
そして、鳥肌が立つような精練された音が次から次に現れる。
確かに若さに火をつけるような勢いはない。
その代わりに、何度も火をくぐり抜け、練り上げられた響きがある。
硬いだけじゃない。
とても音が楽しまれているのが伝わってくる。
「こういうの、いいでしょ?」
と聞かれているような嬉しさがある。
二曲目の「ほうろう」は、特にそんな感じが面白い。
一瞬、いわゆるノリのいいベースラインが聴こえたと思うと、
すぐにそれを裏切るリズムが始まる。
そして、こう歌い始めるのだ…
このテンポなら 好きなリズム・アンド・ブルース
踊りながら 歌えるから
はきなれた このボロボロボロ靴が
ひとりでに 踊りだす
はじめて聴いた時、この真剣なユーモアに僕は思わずニヤリとしてしまった。
「こういうの、いいでしょ?」と言われた気がしたのだ。
歌詞もまた僕の心を惹きつける。
書いた本人の意図は知らないが、僕にはクリスチャン小坂忠の歌と読めたのだ。
明らかにゴスペルを歌ったものもある。
『He comes with the glory』や『People get ready』(*注3)などはそれだ。
でも、一見して一般的なことを歌っているものも、
クリスチャンとして生きてきた道の中での経験がにじんで見える。
「ああ、こういう気持ちを歌っているの?」と、
ふと思う瞬間が僕にはあるのだ。
それは思い込みだと言われれば、そうなのかもしれないけれど(*注4)。
聴く機会があったなら。じっくり聴いてみてほしい。
今「いい」と思わなかったなら、引き出しにいれておいて、
時が経ってからまた聴いてみてほしい。
今でなくても、いつかきっと「いい」と感じる日が来ると思うのだ。
おわり
*注1…あの有名なレコード屋さんのことです。
*注2…現在牧師をやっているとか。ちなみに(むしろ)日本のR&Bの先駆者の一人として有名。
*注3…『People get ready』は元々世界的に有名なゴスペル。山○達郎もライブ盤の「蒼茫」の曲中に使っている。
*注4…例えば、『夢を聞かせて』という曲は僕のお気に入りで、昔クリスチャンサークルの卒業冊子に勝手な解釈と共にこんな文章を書いた。
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